相馬名勝三十景 倉本 信之 手彩色木版画集 刊行

「相馬三十景」上梓伝

 世に愛妻家という言葉があるなら、愛郷家ともいうべき相馬出身の画家・版画家、倉本信之が渾身を込めた、手彩色木版画集『相馬名勝三十景 付・平成相馬六景』がこのほど出版の運びとなった。
 千年に一度といわれる未曽有の天災であった東日本大震災から十一年。まだ復興途次といえる東京オリンピックの年に上梓される本書は、図らずも、甚大なる被災前の名勝の姿を平成・令和から後世へと遺す記録書としての意義を持つことにもなって、さらに注目される。
 相馬三十景はその一部歴史を遠く万葉の時代にまで遡り、相馬六万石の藩政時代を経て、「三十景」として確立しつつ、人々の間に伝播・伝承されてきた。郷土のほこる名勝群である。
 東北地方・福島のさほど広いとも言えない北東角に、三十もの名所名蹟が点在する相馬は、まさに豊かな景観の地と称される――その証左でもある。
 しかし明治から戦後数十年に至るまでの時間の流れは、人々の意識や記憶を風化させ、三十景の一部を行く方知れずとし、その名称そのものの存在すら危うくなりかけていた。
 この事態を惜しんだ倉本とその(飲み)仲間・有志たちは、郷土の誇りをかけて古書探索、伝承聞き取り、幾多の現地踏査、談論風発を経て、三十景の地を改めて確定し、その復活を倉本の握る彫刻刀にゆだねた。その結果を形になしたのが本書版画集である。
 名勝は、自然の美しさばかりでなく、自然の厳しさ、人と自然との交流関わりを今に伝えてくれる。こうして完成された版画集は愛するふるさとの風景点描にとどまらず、往時の暮らしぶりの一端さえ垣間見させてくれる。歴史を透かして見た郷土愛の集大成とも言えるだろう。
 この作品集を賞翫し、また新たに、郷土の誇るべき宝である「相馬三十景併せて平成相馬六景」を愛でるよすがとしていただければ幸いである。

画集より抜粋

Amazonより掲載

福島県相馬市には、古来松川十二景・北山八景(城北八景)・城南十景と相馬三十景が知られている。ことに松川浦は万葉集に詠まれて以来の名勝で、江戸時代からは朝廷の公卿十二人の優れた和歌と絵画が残されている。このたび棟方志功に師事したことのある画家、倉本信之が民俗学者・文学博士である岩崎敏夫氏や相馬郷土研究会の方々と調査・取材を重ね、15年の歳月をかけて平成17年に全ての版画作品が完成した。本書は相馬名勝三十景と平成相馬六景の手彩色木版画全作品と新聞掲載記事等をまとめた版画集であり、地域共有の文化財として大切に語り伝えていく貴重な記録でもある。

主な内容
・脚光を浴びてよみがえる 相馬の名勝三十景
・相馬名勝三十景手彩色木版画
城南十景/北山八景/松川十二景
・相馬名勝三十景新聞掲載記事
・平成相馬六景手彩色木版画
・平成相馬六景新聞掲載記事
・岩崎敏夫先生直筆 相馬の名勝草案原稿
・相馬名勝三十景木版画集によせて

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